コーヒーの値段が1時間で11倍になる話

 2020年もよろしくお願いします。町田くんです。

 

 ウチの家族は初詣のあとコメダコーヒーに行くのが習慣になりつつあります。今年も朝は酒を飲み昼寝してから近くの神社に行き、シロノワールを食べ家に帰って格付けを観るというルーティーンをこなして元日は終わりました。

 

 その2日後、ベネズエラハイパーインフレについて調べていたらこんな記事が。

gendai.ismedia.jp

 この記事のここの部分に目が行きました。

1年で1000万%というのは、期間中の単純平均で1時間で1140%物価が上がる計算になる。茶店に入ってちょっと休憩している間に、コーヒーの値段が何倍にもなっているというのが冗談ではなくなる。いや、外貨を持っていなければ、お茶などするゆとりはないだろう。

 衝撃的な文です。ドン引きしました。

 

 最初の一文はまあ合ってなくはないんですが(後述)、次の「茶店に入ってちょっと休憩している間に、コーヒーの値段が何倍にもなっている」がおかしくなるわけです。「倍」とか「%」とかいう考え方を本質的に理解していなさそうな文章です。

 

 ということでこのインフレ率についてちゃんと書いておきたいと思いました。一般人には想像もつかないパーセントで苦しむ同人は、一体どこでつまずいたのか? 詳しく述べていきましょう。

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突撃!マチダくん

そもそもどこが間違っているのか

 先ほど述べたように最初の一文は合ってなくはありません。ただここが諸悪の根源でもあります。

 

 何故なのか。それは%の基準にしている部分が常に同じだからです。

 

 まず筆者は「単純平均」という言葉を使って増加するパーセンテージを平均しています。10000000/(365*24)≒1140です。だから計算自体は合っていて、1文目自体も一応合っていることにはなります。

 

 しかし、ここで問題なのは、例えば2日後のコーヒーの値段について前々日のコーヒーの値段を基準にしたまま話を続けていることです。1日後と2日後のコーヒーの値段の増加率(インフレ率)を比べるなら、2日後のコーヒーの値段が1日後のコーヒーの値段から何倍になっているかを計算しなければ分かりにくいし、そうでなければそのパーセンテージは単純に比較できるものではなくなってしまうわけです。

 

 分かりにくいと思うので具体的に計算したいと思います。ある年の元日に100円でコーヒーが飲める喫茶店があったとして、その翌年の元日には1000万円になっていた、というのがインフレ率10000000%です。なるほど、確かに深刻な事態です。

 

 筆者はこのインフレを「単純平均」して、元日からの値段を基準として何%増加したかを平均しました。グラフにするとこんな感じ。今年は閏年ですがめんどいので1年を365日としています。

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 基準としているのは常に経過時間0日のときの値段ですから、増加率を平均して同じにすると増加する値段が同じになります。つまり常に同じ金額だけ値上げされているわけです。

 

 そうするとおかしな問題が出てきます。元日の0時から1時までで値上げされた金額を考えると確かに1140%値上げされて1240円になります。しかし、1時から2時までで値上げされた金額は0時の値段の1140%、つまり1140円です。ですから2時でのコーヒーの値段は1240+1140=2380円です。

 

 そして、1時から2時までのインフレ率を考えると2380/1240=191.9%となるわけです。つまり本来考えるべきインフレ率が一定ではなく、「茶店に入ってちょっと休憩している間に、コーヒーの値段が何倍にもなっているとはならないわけです。

 

 これは大晦日について考えればさらに分かりやすく、990万円するものが1140円値上げされたところで「元日0時の値段から1140%も値上げされている!ハイパーインフレだ!」とはならず、ほぼ変わらない値段であると認識するはずです。

 

 このように、値段の増加率を「単純平均」しても、現実に即したインフレ率にはならないのです。ここがこの1140%値上げの間違いの最大のポイントです。

 

ではどう直せばいいのか

 

 どう直せばいいのか。現実に即したインフレ率を一定になるように平均してあげればいいのです。

 

 結論から言うと指数関数を使えばいいんですが、せっかくなのでちゃんと数学を使って計算していきましょう。

 

 増加率\displaystyle \frac{dy}{dx}yに対して同じ割合になればいい訳ですから、微分方程式

\displaystyle \frac{1}{y} \frac{dy}{dx}=a

 を解けば答えが出ます。 

 dxを右辺に持っていって積分すると、

\displaystyle \int_{}{} \frac{1}{y} dy = \int_{}{} a dx

 ですから、これを解いて、

\displaystyle ln(y) = ax + C

\displaystyle y = C'e^{ax}

 となります。

 

 つまり増加率が常に同じになるようにするためには指数関数で近似してあげればいいことになります。これがインフレ率を考えるとき、増加率の本当の意味での「平均」と言えます。

 

ちゃんと計算するとどうなるのか

 

 では今回のコーヒーの値段を指数関数で近似すると、1時間にどれくらいの増加率になるのか計算したいと思います。

 

 まず指数関数ってどんなものなのか理解していただくために、2ヶ月ごとに値段を計算し、それを折れ線で繋いで見ました。それがこちら。

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 図1と比較してもらえれば分かりますが、半年くらいまではほとんど値段が上昇していないことが分かります。逆に、最後の方の値段の上がり方は凄まじいです。

 滑らかに指数関数で繋ぐとこんな感じ。

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 もうお分かりいただけたかと思いますが、たとえインフレ率10000000%といえど、「茶店に入ってちょっと休憩している間に、コーヒーの値段が何倍にもなっている」とはならず、実際にはもっと緩やかに値段が変化しています。まあ2月でコーヒーの値段が6倍になるのを緩やかなインフレとは思いませんが…

 

 このモデルの下1時間あたりのインフレ率を計算すると100.13%でした。1100%には到底及びませんし、これくらいなら値段にすぐに反映されるということもないでしょう。コーヒーの値段が11倍になるのにかかる時間は実に76日です。とはいえ1日あたり103%のインフレ率なので去年日本が消費税を8%から10%に上げて大騒ぎしていたのがなんだか馬鹿らしくなります。

 

 ちなみに1時間あたり1100%のインフレが実際に起こっていたとすると、年間でのインフレ率は約10^9000%になります。むしろ紙幣を印刷する側がすごい。「茶店に入ってちょっと休憩している間に、コーヒーの値段が何倍にもなっている」は冗談でしかありません。

 

終わりに

 

 今回の記事で伝えたいのは何事も単純に考えすぎると大変な誤解になりかねないということ、指数関数は偉大であるということ、そして何より数字に騙されてはいけないということです。別にこの経済ジャーナリストの人を糾弾したいとか思ってないです。間違いも正せばいいことです。この記事を読んだみなさんがくれぐれもこんな重大なミスをしないように願って止みません。

 

 最初にコメダコーヒーの例を出しましたが自分はシロノワールと一緒にミックスジュースを頼みました。コーヒー飲めないので。あれ苦くて美味しくないじゃん?

 

 おわり