実は約35%の会話は成立していなくって

 またお会いしましたね。町田くんです。

 

 私は常にTwitterにいるのですが、その中でよくこんな言説を耳にします。

 

 

 

 「IQが20違うと会話が成立しない」

 

 

 

 ホンマか?????????

 

 となったのでシミュレーションしてみました。

 

 

 まず知能指数(Intelligence QuotientIQ)について調べると、中央値が100、標準偏差σは15前後で定義されているそうです(Wikipediaより引用)。

 

 

 …正直この時点で答えが出ている気がしますが、このIQが正規分布に従うとすれば、85-115の間に約68%の人が収まります。つまりここに入るのがIQを指標に考えたときの「一般人」ということになります。

 

 正規分布では平均からの差が2σを越えると外れ値とすることが多いので、この場合70未満、もしくは130を越えると異常なIQを持つ人と言えそうです。実際に高IQ団体MENSAはWAISで130以上のスコアであることを入会資格としています。

 

 とすると、実はIQが20違うことはそんなに珍しくないのです。先ほどの「一般人」というくくりの中にもIQ20の差は存在する訳ですから正直大したことありません。

 

 例えばIQ110の人とIQ90の人のIQの差は20あります。正規分布によればIQ110以上の人もIQ90以下の人も全体の1/4程度です。結構いるんです。学校のクラスの中では日常茶飯事でしょうし、同じ家族の中ですら起こり得ることということになります。

 

 しかし実際にIQが20違うと会話が成立しなくなるならどれだけの会話が成立しないのか気になったので、Pythonくんに働いてもらいました。コードはこちら。

 

import numpy as np
l=[0 for b in range(0,10)]
for k in range(0,10):
    a=np.random.normal(100,15,1000)
    c=0
    for i in range(0,len(a)):
        for j in range(0,len(a)):
            if abs(a[i]-a[j])>20:
                c=c+1
    l[k]=c/(1000*999)
print(l)

 

 これでlistに何%の会話が成立しなかったのかが10回分出力されて出てきます。基本的な部分は説明を省きますがコーディングがめんどくさいのでわざとダブルカウントして会話の総数 _ {1000} C _ {999}の2倍で割っています。i=jのときは差が0なので弾かれます。

 

 これで計算するとこんな感じ。

 

[0.3532932932932933, 0.3445645645645646, 0.33783983983983984, 0.3341321321321321, 0.3344044044044044, 0.38335535535535536, 0.3371271271271271, 0.3424184184184184, 0.3347827827827828, 0.3466106106106106]

 

 ブレはありますが会話の約35%はIQが20以上離れた人同士の会話ということになります。これじゃあ会話も何も人間の意思疎通そのものが成り立っていないようなものです。

 

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大誤算

 もちろん実際にはこのモデルのように全ての人が1回ずつ違う人と会話している訳ではありません。東大生のIQは平均120と言われる通り、自分の置かれた場所によって話す人のIQは変わってきます。

 

 他にも自分の近しい人とは繰り返し言葉を交わすでしょうし、違う境遇にいる人と話す機会は少なくなります。また初対面のときはあまり気持ちが分からなくても、年月を経て相手が何を伝えたいかわかるようになるということもあります。実生活において成立していない会話というのは全体の35%より少なくなりそうです。

 

 また今回のシミュレーションでは会話というもの全体を見ていますが、実際には自分という1人がする会話しか関与していません。その人自身が偏ったIQの持ち主であれば、会話が成立しないと感じる割合は多くなるかもしれません。

 

 

 

 で、「IQが20違うと会話が成立しない」という元の言説に立ち戻ってみたいのですが、そもそもなぜこのような表現が生まれたのでしょうか。

 

 世の中にはギフテッドと言われる飛び抜けて知的能力が高い人たちが存在して、時としてその人たちは差別の対象になります。多くの人々はギフテッドの考えていることを理解できないからです。ギフテッドからすると自分の言いたいことを理解してもらえないもどかしい状況になります。

 

 また知的障碍者と呼ばれる知的能力の低い人たちも存在します。これはギフテッドと逆で「一般人」は言いたいことを理解してもらえなくなります。

 

 しかし、「IQが20違うと会話が成立しない」が生まれるまでに、実際にIQの高いギフテッドとIQが普通の「一般人」、あるいは「一般人」とIQの低い知的障害者を並べて会話させたのでしょうか。答えはおそらくノーです。

 

 これは推測でしかありませんが、会話が通じなかったときにその口実としてIQを持ってきただけだと考えられます。実際にIQを調べるにはそれなりのテストをお互いに受ける必要がありますし、そもそもIQ自体受けるテストによってバラつきがありますから本当のIQを調べるのは困難です。

 

 実際には「会話が成立しないのはIQが違うせいだ」という誰かが考えたこじつけがあって、それを正当化するために「20」という数字を持ってきてできた言説に過ぎないと考えられます。

 

 「会話が成立する」というのは息が合うとか言っていることに共感できるとかいうことだと思いますが、そこにはコミュニケーション能力や過ごしてきた環境、その人の考えた方など実に様々な要因があります。この言説について言えばIQの誤用と言っていいと思います。

 

 IQは目に見えないものなので人の悪意によって意味が曲げられてしまいがちです。IQの回し者でもなんでもないのですが、正しい理解をもって人と接するようにしたいものです。

 

 まあ「私はあなたの会話を理解することができないからあなたと私は境遇や知識やその他諸々が違うんだろう。さようなら」なんて言ったら本当に会話が成立しなくなりますけど。そういう意味で言えば「IQが20違うと会話が成立しない」という言説は時に会話を成立させるために使われているのかもしれません。

 

 

 ネタで書いてたつもりがかなり踏み込んだところまで書いてしまいました。 ここまで読んでくださりありがとうございました。

 

 こんな記事書いてるやつとだと会話成立しなそうですか?よく言われます。それでは。