超!大人の漢字ドリル 第一回

 

 お久しぶりです。町田くんです。夏休みになって暇なのでブログを書きます。前回の記事みたいにクソ長くはないので気楽に読んでください。

 

 今回の話題は漢字です。日本人たるもの、やはり漢字を知っていることは生きていく上で必要ですし、教養の有り無しがここで判断されることもあります。かくいう私も漢検準一級を持っています(1回落ちたけど)。

 

 しかも「大人の」漢字ドリルです。さらには「超」がつく漢字ドリルです。それ相応の覚悟をしてください。ちなみに第一回と書いてありますが次回のこととか全く考えてないので悪しからず。

 

 では問題です。次の漢字を口に出して読んでください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 読めましたか?

 

 さあ、口に出して読んでみましょう。せーの。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さけ」「しゃけ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれ?

 答えが2通り出てきてしまいました。不思議ですねえ。

 

 ということで今回の話題は「鮭」という言葉についてです。この漢字の読み方、生き物の呼び方に着目しました。

 

 

 日本語は厄介な言葉なので、同じ漢字であっても読み方が二つあったり、読み方が同じなのに違うモノを指したり、はたまた同じ漢字でも読み方によって意味が違ったりします。

 

 例えば「風車」は「かざぐるま」と読めば子供が走り回って遊ぶ様子が思い浮かびますが、「ふうしゃ」と読めばそのイメージは数十倍、数百倍スケールが大きくなります。

 

 あるいは「舞台の上手から出てきた演者の上手い演技は自分より一枚上手で、上手に褒められなかった」のような文章を作ることができますし、自然と文脈に即して読み方を変えて読んでいることが分かります。

 

 何より今住んでいるこの「日本」すら「にほん」「にっぽん」と読み方が2通りあります。無理すれば「やまと」もいけます。これは他の国では考えられないことでしょう。ホントに困った言語です。

 

 しかし、「にほん」「にっぽん」の違いはかなり明確に別れているように感じます。先ほど『日本語は厄介な言葉なので、』という表現を使いましたが、大多数の人は「にほんごはやっかいなことばなので、」と読んだはずです。またバレーボールやサッカーで応援するときに、「にほん!チャチャチャ」と言う人はいません。「日本人」はかなり読み方が曖昧な気がしますが。

 

 

 それに比べて「鮭」はどうでしょう。「さけ」「しゃけ」はどちらも同じ魚のことを指します。また文脈に即した使い分けも、これと言ってされていないような気がします。強いて言えば「酒」との区別のときに「しゃけ」と言いがちな気もしますが、漢字や(標準語の)イントネーションだけで十分別物だと理解できます。

 

 ここまでを踏まえて皆さんに問います。

 

 

 どちらが正しい読み方ですか?

 

 

 この曖昧な(ambiguousな)読み方に敢えて「正しさ」を求めてみよう、というのが今回の記事の趣旨です。

 

 

 とりあえずWikipediaを見てみました。学術的にこの魚(Oncorhynchus keta)は「サケ」と表記されるようです。

 

ja.wikipedia.org

 

 すると「別名」という項目にこんな記述が。

 

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『シャケとサケの関係については諸説ある。』

 

 これじゃあ意味がありません。まともな記事書かんかい

 

 

 正式名称が「さけ」ってことは「しゃけ」間違ってるじゃん!となるかもしれませんがそうとも言い切れません。マルハニチロが行った調査では6割の人が鮭を「しゃけ」と呼んでいるというのです。言葉は常に変化するものですから、正式名称だけでは「しゃけ」が間違いであると一概に言えません。

 

https://www.maruha-nichiro.co.jp/news_center/research/pdf/101203sake_ishiki-cyousa_.pdf

 

 

 色々調べると「さけ」「しゃけ」の呼び方自体はかなり昔からあったようです。どちらが由緒正しい言い方なのか。そんなときに有用なのは皆さんご存知、日葡辞書です。これを元に「正しさ」を議論していきましょう。

 

 日葡辞書は室町時代あたりにできた日本語をポルトガル語で説明した辞書です。当時の人からしてみれば英和辞典のようなものですが、今では当時の日本語とポルトガル語の文法、音韻を表す歴史的資料となっています。

 

 その日葡辞書によれば「さけ」だけが表記され、「しゃけ」は俗称としても書かれていなかったようです(ここは日葡辞書を読んだわけではないのであまり自信がないです)。

 

 ここで気をつけなければならないことは、日葡辞書は当時ポルトガルとの交流が盛んだった長崎を中心とした言葉について記載されていることです。京都の人の言葉については記載がありますが、西日本を中心とした当時の日本語に基づいていることに気をつけなければなりません。

 

 そうすると「しゃけ」という呼び名は東日本からやってきたのではないか?という予想ができます。日葡辞書が完成したのはちょうど江戸幕府が成立したのと同時期なので、これから江戸をはじめとした東日本(いわゆる東国)の言葉の影響を受けてくることが考えられるわけです。

 

 「サ」と「シャ」なんてかなり音として近いのでただの西と東の発音の違いとして考えてもいいのですが、ここでまた日葡辞書が力を発揮します。ポルトガル語の表記から考えると、当時の京都をはじめとした西日本では「セ」「ゼ」が今でいう「シェ」「ジェ」として発音されていたというのです。さらに(これは日葡辞書ではない)当時の東日本ではその「セ」は今と同じ「セ」として発音されていたようなのです。

 

 そんな中で西日本で「サ」と発音されていた音が東日本で「シャ」と発音されることがあるのでしょうか。音韻だけで言えばおそらくそうではないのでしょう。また別の理由があって西日本では「さけ」、東日本では「しゃけ」と呼ばれていたと考えるのが自然ではないですか?

 

 

 ここでもう一回Wikipediaを見てみます。今度は「サケ類」の記事です。論文とかだとWikipediaから引用なんてできないからね。ブログ最高!!!

 

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 アイヌ語で「夏」を意味する「シャク」(shak)が訛ったとされるもの。』

 

 「さけ」の語源がどうというのはここでは問題にしないとして、「しゃけ」の語源はこれなんじゃないでしょうか。つまり「さけ」はもともとの日本語、「しゃけ」はアイヌ語由来の外来語だったのではないか、ということです。アイヌ語について調べると「サ」と「シャ」の区別はなくまとめて「サ」としているため、方言によってかなり発音がぶれるようです。

 

 北前船のようにアイヌとの新たな交流により鮭を手にした和人が、「しゃけ」という言葉で鮭を表現するようになったということは十分考えられるでしょう。またアイヌはそもそも東北にも住んでいたので、江戸近辺ではもともと「しゃけ」という言葉があったのかもしれません。

 

 いずれにせよ、これまでの考察からすると「さけ」が(西日本が中心だったころの)本来の鮭の呼び名であり、「しゃけ」は東日本から新しく入ってきた鮭の呼び名で、その由来としてアイヌ語が考えられる、というのが有力と言えます。

 

 

 ここでようやく本題に戻れます。鮭の読み方として「さけ」と「しゃけ」はどちらが「正しい」のでしょうか。

 

 漢字としての読み方は「さけ」が正解です。漢検が示すところによれば、「しゃけ」は鮭の読み方に含まれていません。

 

 しかし、今回の問題はそれだけに止まりません。生き物としての鮭の「正しい」呼び方とはどちらなのか。

 

 学術的には「サケ」と呼ばれているのですから、おそらく「より」正しいのは「さけ」です。でも事実「しゃけ」とも呼ばれています。

 

 先ほどの考察を踏まえれば「しゃけ」はアイヌ語由来の可能性があり本来の日本語として正しいのかは疑わしいところがありますが、現在の日本語としてはどちらも正しい呼び方だと言わざるを得ません。でも敢えて、敢えて正しい方を選ぶとするなら、本来の呼び名である「さけ」というべきでしょう。

 

 

 

 いかがでしたか?(キュレーションサイト風) またつまらぬ記事を書いてしまった… 一回書いておきたかったことだったから許して。物事について超!深く考えるのは楽しいものです。みんなも「しゃけ」って言ってる人を見かけたら(お?アイヌの末裔か?)って疑ってあげようね。

 

 今回調べてて思ったんですが鮭って常用漢字じゃないんですね。意外。ちなみに鮭には「さけ」以外にももう一つ訓読みがあります。「さかな」だそうです。読めるかあああああ!!!!!!